Theme 01
先見性をもち、
オリジナリティのあるデザインを


熊谷 20年前の100周年記念のとき、朝井が壇上であいさつしたのを覚えているよ。あのころと比べて仕事の環境は劇的に変わりましたね。
朝井 ちょうど僕らが入ったとき、Auto CADに移行したんですよね。
藁品 それまでは矩計図にしても全部一から手描きが当たり前だった。図面リストすら手描きでしたよ。この20年で最も大きな変化と言えば、CADによって、確実に合理化が図れたことだろう。20年前は多大な残業をして設計を行うことが当たり前だったけれど、今ではまずありえない。
朝井 働き方改革もあって20年前と比べて、より限られた時間の中で迅速にやらなければいけないのはけっこう大変なことですよね。
山田 合理化という点では、構造計算のソフトというのは以前は全部テキスト入力でした。傾斜軸のある建物で、軸が交差する接点座標もあらかじめ計算し、頭の中で全部、構造モデルをつくってから行っていた。そして解析するとこういう応力になる、ということを予想しながら設計していたんです。でも今は、入力インターフェイスが格段に進化して、複雑なモデルも簡単に入力できるようになった。構造計算結果が出るのは早いけれども、出たものをそのまま鵜呑みにしてしまうという側面はある。
藁品 手描きは、どう納まっているだろうかと考えイメージしながら描くけれど、CADは描けてしまう。手描きだとはじめに描くときからちょっとした山留めにしても、仮設がどうなって、ここはどうしよう…と考えながら描いていく。それは経験として積み重なっているとは自分でも思うけれど、今は絶対的に速いツールを使うことが当たり前の時代だと思う。
熊谷 スピード感がすごいですね。それがお客さんにも当たり前だと思われてしまう大変さがある。
山田 昔は多少のゆるさがあったから、少々の失敗なら現場で帳尻合わせということもあって、それがとてもいい経験になった。今は申請の手続きも膨大だし、社内のチェックも厳しく、常に失敗しないようにという目で見てしまう。構造の部署でいうとパソコンの性能向上に伴い、処理できる情報量が多くなり、構造計算スピードが高速化していることから、トライアル&エラーがたくさんできる。そこは恩恵にあずかっていると言えるのかもしれない。
藁品 もう、そういう時代になって、いかに対応するかだと思う。その上で新しい知識を取り入れて、批判されることを恐れずに、先見性と設計者として蓄積されたものをもって、オリジナリティのある新しいデザインを提案していく。それが設計事務所が生き残っていける道なのではないかと思う。