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“たくさん積める”から“仕分けしてお届けする”のに適切な施設へ
井藤 私は1986 年にニチレイに入社したのですが、当時はそれこそ年間に8~10の新設プロジェクトを横河さんと一緒に動かしていたという旺盛な時期でした。
早川 ニチレイ・ロジスティクスエンジニアリングは元々、ニチレイ本体の技術部という位置づけでしたね。そこで受注された物件を技術的・運用的に立ち上げるにあたって、設計事務所と施工者を選定されていました。
井藤 僕は技術部にいて、社内の管理部門から「この地域にこんな冷蔵倉庫が欲しい」というオファーが届くと、どういうものを建てるのかというラフなレイアウトをつくっていました。方針がまとまったら横河さんに、しっかり建物として施工会社にわたせるような設計をお願いするというやりとりですね。早川さんには設計の総まとめ役のような立場から見ていただいてきました。
早川 ラフと言いつつ、ニチレイさんの技術部には冷蔵倉庫のさまざまなノウハウがあって、技術指針がしっかり確立されており、レールに乗ったようなかたちで設計を進めることができました。
井藤
そんなに単純じゃないと思うよ。確かに指針はあるけれど、それを各地の具体的な案件にどう落とし込むかというのは、設計事務所でなければできないことですから。おそらくニチレイと横河、それぞれの窓口として一番接してきたのが我々二人なんじゃないかな。
1980 年代後半、冷蔵倉庫に求められたのは、どれだけたくさんのものを保管できるかという機能でした。多少の使い勝手や荷物の取り回しのよさよりも、いかに大量に保管できるかということが優先された時代があったわけです。
現在、冷蔵商品については、生産してから一般のお客様にお届けするまで低温を保つ「コールドチェーン」という仕組みが確立されているわけですが、当初の冷蔵倉庫は保管場所以外では常温で、そういう意識がまだなかったんですね。
その後、1990 年ごろから冷蔵倉庫全体に品質管理が求められるようになってきて、荷物の出し入れをするスペースでも温度を管理しようということになり、設備も変わってきたわけです。今に至っては、どれだけ荷物を細分化して消費者にお届けできるかという、取り回しのよさも求められています。
早川
昔の荷役では決められたパレットの寸法があって、それを冷蔵倉庫に効率よく積んでいくことが前提で、柱の隙間もないようにギッチリ詰まるように設計するというのが命題だったんです。「コールドチェーン」を意識するようになってからは、仕分けのしやすさが求められるようになりました。
マテハン(マテリアルハンドリング)の多様化にも対応しなければなりませんし、冷蔵倉庫全体を冷たくして、トラックの接車からなにから、常にコールドの状態を保たなければならないということがあります。中でも結露はいつも現場からのクレームの元になっているので、冷蔵倉庫の運用では一番配慮しなければならない点ですね。
製品に水滴が一つでも垂れると売り物にならないということがあり、冷蔵倉庫に求められる性能は非常に高いと感じています。
井藤 元々は商品の原料を運んでいたのが、今では皆さんが手に取るような冷凍・冷蔵商品が荷物の主体になっており、冷蔵倉庫内の保管効率よりも、いかに品質を保ち、効率的にお届けできるか、という風に変わってきたわけです。それに伴って防湿防熱材なども試行錯誤しながら使ってきました。
早川 決められた基準数値以上の防湿防熱を組み合わせながら使っていくのですが、より結露が発生しないものを選んでいますね。こういうときにはこうした方がいい、という材料設計のノウハウを蓄積してきました。
井藤
そこではやはり、冷蔵倉庫をお使いになっている方からの声が大事ですね。いかに完璧に近い施設をつくったところで、それを使用する方に適切に運用していただけるかどうかがカギになるということです。たとえば使う方が倉庫を開けっ放しにしていたら、僕らの設計にはそぐわない結果になってしまいます。ですから、どれほどしっかり使っていただけるか、使いやすいかたちでご提供できているか、というところが難しいわけです。
僕らは竣工後もずっと運用している様子を見ていられるわけでもなく、次のプロジェクトに走らなきゃいけない。だから、こちらの意図がうまく伝わらないまま運用されてしまわれないように、わかりやすいものをつくっていくということだよね。
早川 そういった流れの中で重要になってきたのが、運用面でのデジタル化/自動化です。というのは、‒25℃の中での荷役は人体にとって非常に苦痛なわけです。ニチレイさんは今、過酷な条件下での荷役の自動化について、業界のトップランナーになっておられます。
井藤
“たくさん積める施設”から“ 仕分けしてお届けするのに適切な施設” へと変わってきて、それからどうするのか。早川さんが言うように、冷蔵倉庫内は働く環境ではないというのは誰もが知っていることで、今までは職人さんが品物を納めていたところを、どれだけデジタル化し、自動化していけるかが今、一番大きな課題です。
昔は手書きで「ハムはA-5」といった風に荷物に番地を付けていたわけですが、それをできるだけデジタル化して、次の場所に荷物を動かすためにバーコードをどのように活用していけるのか、そんな流れで進んでいるところだと思います。



横河建築設計事務所はこれまでに約80件ものニチレイグループの施設を手がけてきた。左からニチレイ仙台南物流サービスセンター( 2001)、ロジスティクス・ネットワーク杉戸物流センター( 2005)、キョクレイ山下物流センター(2010)