PROJECT STORY 04

世紀の歴史を未来に繋ぐ~重要文化財

三越日本橋本店本館

大正 3 (1914)年、横河工務所の設計・施工により3年余りの歳月を掛け、三越日本橋本店本館が完成しました。建物の歴史はここから始まります。100年をこえる歴史の中、関東大震災や太平洋戦争という、数々の波瀾の時代を超え、時々の芸術や文化を紡ぎながら、現在もなお訪れる人々を魅了しています。
当社の歴史と重なる『老舗』三越日本橋本店を、日本の百貨店建築の歴史を象徴するものとして、未来へ継承していくことは我々の使命です。

1908(明治41)年の仮営業所築造から1935(昭和10)年までの建物の変遷[1954(昭和29)年、横河工務所作成]

01_今も残る当時の躯体

三越日本橋本店本館は、創建当時から大きく6回の増築改築が行われました。創建時は、現在のライオン口部分に5階建てが建築され、第2期にあたる大正10年~11年に増築工事(現在のおよそ1/3の規模)を行った直後、大正12(1923)年の関東大震災により大規模な被害受けました。落胆の中、社会的にも早期の回復が望まれ、被害が少なかった既存の構造体を生かしながら2年の歳月をかけ昭和2(1927)年に修築を完了します。
修築に当たっては、創建からの構造体を利用し工事が行われたことから、今もなお、大正 3 (1914)年の構造体が、建物の中で息づいています。

三越中央階段

02_各時代を反映した百貨店建築の歴史

物販店として商品陳列のための売場の面積確保が重要な中、創建時から、中央に大きな吹抜けが設けられました。吹抜けを中心とした売り場の展開や回遊動線は、上下階への興味・関心を喚起させる役割を果たしています。この『吹抜けを中心とした売り場構成』は、日本の百貨店建築の先駆けとなり後世に引き継がれていくことになります。
修築の際には、今も館内に残る『三越ホール』(現:三越劇場)が築造され、稀有な百貨店内の劇場が生まれました。物品販売のみならず、文化・芸術の発信を続けてきたこの建物にとって、三越劇場は本施設の象徴的な一つとなり、現在もなお、昭和2(1927)年の姿のまま、訪れる方々を迎えています。
昭和10(1935)年の増築時には、煌びやかなステンドグラスと装飾に囲まれた現在の中央ホールが設けられ、パイプオルガンの音色と共に本店の象徴の一つである天女像が、訪れる多くの方々を魅了しています。以後も増築を続け、大正~昭和の半世紀の時を経て、昭和39(1964)年に現在の姿になりました。

  • 近年の中央吹き抜け(天女像)
  • 近年の三越劇場(観覧席側)
  • 建物東口正面玄関(ライオン口)
西館矩計図(大正10年)

03_ 2,115枚の残された図面

関東大震災や戦火を逃れ、横河工務所時代から当社により作成された、創建時から昭和39年までの図面、2,115枚が建物と同時に、『重要文化財 附(つけたり)』として指定されています。これらの図面は、半世紀に及ぶ増改築の様相を知るうえで重要な史料であるとともに、日本の百貨店建築の変遷を見ることが出来る貴重な史料であると評価されています。
一般的な意匠図、構造図、設備図のほか、デザイン画や石の割付図、原寸図、当時先鋭的であった設備機器の図面もあり、また、実現しなかった検討図等も含まれています。これらの図面すべてに、一人の建築家中村傳治が半世紀以上にわたり日本橋三越本店とともに歩み、百貨店建築に建築家としての生涯をささげました。

創建から現在まで、先人たちの尽力により、大切に活用され、残された図面を活用し、増改築の経緯や当時の建築的な思想を紐解きつつ、恒久的な維持・保全に取り組んでいます。

  • 縦断図(大正3年)
  • 石割詳細図(第弐期工事)
  • パイプオルガン装飾金物図
  • 正面入口詳細図(大正3年)
  • 室町通東南隅矩斗
  • 西館塔屋詳細図
屋上緑化竣工(2019年)

04_次の100年に向けたレジリエンスとサステナビリティ

建物を恒久的に未来へつなぐため、平成20(2008)年に、レトロフィット工法による営業を継続しながら免震化が行われました。松杭を含む3種の基礎形式をもった建物を直接基礎に替え、既存構造体、内装、外観の改変を最小限に抑えながら、地下階のフロア段差の解消と地上部の補強をしつつ6年7ヵ月の歳月を経て、現在では314個の免震支承により建物が支えられています。100年を超える建物であるにもかかわらず、近年の大きな地震等でも、数センチの揺れが生じたのみで、建物への一切の被害は生じておらず、永続的な安心・安全な施設環境が整えられています。地下階には免震装置を見学できる窓を設け、広く一般の方々に公開しています。

また、重要文化財の指定にあたり、恒久的な外観の存続に向け、平成23(2011)年から4年の歳月をかけ、外装の復元や保全、オーナメント等の修復を行いました。外壁には各時代において天然石・人造石・タイル等の多様な材料が使用されており、各所の劣化具合も異なる状況の中、当初の材料を極力生かしながらも、安全性を確保するための手法について有識者を交えて検討を何度も重ねました。内部においても、設備の近代化に伴い、より快適な空間とすべく、日々、更新・保全が続けられています。

  • 屋上緑化竣工(2019年)
  • ライトウェル(本館中央吹抜部)
  • アンティフィクサ(化粧瓦)

屋上にはギャラリー・写真撮影室・縁日・ロープウェイ…、時々の時代に合わせ数々のアメニティを提供してきました。さまざまな仕掛けが施され活用されてきた屋上もまた、建築の歴史とともに変遷をしてきたと言えます。平成31(2019)年には全面屋上防水改修を行い、時代と環境に合わせた新たな屋上活用として都会のど真ん中に「日本橋庭園」の整備が行われ、都市に緑を生み出し、来館者の憩いの場として新たな歴史も歩みはじめています。

三越日本橋本店本館と共に歩み、およそ110余年。次の100年に目を向け、この建物を後世に残すべく保全・維持管理に日々尽力していきます。